『ウンベルトD（Umberto D）』生きていく困難さを描いたローマの真実

公開日：2020/09/26

ウンベルトとはこの映画の監督であるヴィットリオ・デ・シーカ（Vittorio De Sica）の父の名であり、父に捧げる映画として製作されたものです。公務員を解雇され少ない年金生活に疲れ果てていく老人と犬を主人公に描かれています。

映画『ウンベルトD 』予告編 Trailer 1952.

映画『ウンベルトD（Umberto D）』は1952年のイタリア映画で舞台となっているのはローマです。生きていくという事がいかに困難であるか、そして希望を捨てずに歯を喰いしばる老人と、その老人を守ろうとする犬のフランクが主人公といえる作品です。出演者の大半は俳優経験がない素人で、主人公のウンベルトを演じたカルロ・バッティスティ（Carlo Battist）の本業は大学の教授です。共演の美しい娘であるマルア・ピア・カジリオ（Maria Pia Casilio）も街中で見つけた女性です。映画出演作は2人ともこの作品のみです。

映画『ウンベルト D (Umberto D）』 original source 1952.

監督であるヴィットリオ・デ・シーカ（Vittorio De Sica）は1948年に公開された映画『自転車泥棒（Ladri di Biciclette / The Bicycle Thief）』で第22回アカデミー名誉賞を受賞しています。また『ウンベルトD』は1955年のニューヨーク映画批評家協会において外国語映画賞を受賞しました。

映画『自転車泥棒』 original source 1948.

『ウンベルトD』、『自転車泥棒』とも音楽を担当したのはアレッサンドロ・チコニーニ（Alessandro Cicognini）でヴィットリア・デ・シーカ監督作品に音楽を提供していたイタリアの作曲家です。1954年制作、カーク・ダグラス（Kirk Douglas）が主演した映画『ユリシーズ（Ulisse / Ulysses）』の音楽もアレッサンドロ・チコニーニによるものです。

映画『ユリシーズ』 original sound track 1954.

映画『ウンベルトD』は素人の役者を使った映画であるにもかかわらず現在においても評価は高く出演者たちの演技自体もすばらしいものです。これは当時のイタリア経済が困窮しており、演技をする必要性がなかったからだと言えるでしょう。また、もし犬がアカデミー賞の対象になるのであればフランクは助演賞が受賞できたでしょう。この作品の翌年に同じローマを舞台とした映画が公開されます。『ローマの休日（Roman Holiday）』が陽であるなら『ウンベルトD』は陰のローマを表現した作品です。

映画『ローマの休日』original sound track 1953.